株式会社タックスは,1989年(平成元年)に操業開始.「TAX(税金)」 ではなく(笑),「TACS(タックス)」 という社名は,「Tokyo(東京)」 の 「T」,「Aluminium(アルミ)」 の 「A」,「Kanagata(金型)」 の 「K」,「Sekkei(設計)」 の 「S」 から名付けられたものだそうだ.
メーカーは,企画・設計した製品の仕上がりを,明確に把握してから製作に臨みたい.そして,一刻も早く量産に移りたい.そのための鍵となるのが,製品の雛形ともいえる 「試作品」 である.㈱タックスは,その試作品の製作を生業とする企業であり,その対象は,ヘリコプターの部品や船舶のモーターの部品,光学機器などの精密部品の他,日常的なものとしては,携帯電話や自動車部品など,実に幅広いものがある.創業当時は,NTTから民間に開放された電話機製造のための試作で忙しかったそうであるが,そのうち,同業者との差別化を図るために,樹脂製品だけではなく,アルミ製品の試作も試みるようになっていった.
初期の HONDA ASIMO の手の部品の試作は,一手に引き受けていたそうだ. |
タックスが採用している 「アルミ精密鋳造・真空注型方式」 は,切削加工や砂型を利用した鋳造による方式と比較して,製作日数やコストの削減という大きな利点がある.ユーザーからの仕様変更やリピート生産の要請にも,迅速に対応することができる.
真空注型は,樹脂製の試作品を製作するときに用いられる.まず,何らかの方法でマスターモデルを用意し,その周囲にシリコンゴムを注入して主型を作る.そして,シリコンの主型の中を真空減圧し,その中に熱硬化性樹脂を流しこんで乾燥炉に入れ,樹脂を硬化させて成形品を作る.型の隅々まで樹脂が行き渡るため,アンダーカット部を持つなど複雑な形状も成形することができる.出来上がる複製品は非常に精度が高く,金型と比較しても,短期間かつ低コストで複製品を製作することが可能であり,半量産品にも対応できる.
アルミ精密鋳造は,まず,①マスターモデルを用意して,②シリコンに形状転写した後,③その型に再度シリコンを流しこんで反転型を作り,さらに,④その反転型を石膏で作る.そして,⑤その石膏型にアルミを流しこんで真空減圧することにより,⑥肌面が綺麗で精密なアルミ製の鋳物を得ることができる.最近では,①の工程を省いて,③の反転型を作るために必要となる,②の型の形からマスターモデルにするのが一般的だそうだ.これは①のマスターモデルの反転形状を簡単に作成できる3次元CADの力が大きい.
左の二つは,①の工程を省いて作成された,②反転型のマスターモデル |
②の型にシリコンを流し込んで作った③反転型 |
③の型に石膏を流し込んで作った④反転型 |
④の石膏型にアルミを流しこみ,真空注型で成形した部品 |
真空注型機 |
これからの試作に求められるのは,寸法精度や面粗度だけでなく,限りなく製品と同じ材料を使い,限りなく製品と同じ方法で成形され,重さや強度などの点でも,限りなく製品と同じ性能であるということだそうだ.そうでなければ,部品の性能を確認するための試験に対応できない.これは,最近もてはやされている3Dプリンタによって成形された試作品とは,かけ離れた世界である.3Dプリンタによる造形の欠点は,成形時間,製品の強度,樹脂の値段などの運用コスト… うーむ,まったくもって,話にならない… せいぜい,パーソナルな玩具を作って楽しむ程度であろう.試作屋としては,3Dプリンタを利用した成形技術には期待しているということであったが,タックスで行われている試作は,まだまだ製造業の第一線で活躍することになるであろう.
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