私は,気に入った本を思い出しては,何度も読むのが好きなのですが,この時期になると必ず読みたくなる本があります.岩波ジュニア新書 156 「1945年8月6日 - ヒロシマは語りつづける」 著者の 伊東 壮 氏は,経済学者であり,平和運動家,広島一中三年のとき学徒動員中に工場で被爆し,軽度ではありましたが急性放射能症にかかったという被爆者です.核兵器廃絶運動に積極的に関わり,昭和56年から日本原水爆被害者団体協議会の代表委員を務められました.私がこの本を購入した2000年に亡くなっていたのですね.なんだか,不思議な縁を感じます.
「また,ジュニア新書ですか?」 などと,侮ってはいけません.岩波ジュニア新書は,確かに,中学生・高校生を主な読者対象としたシリーズですが,啓蒙書として一般人でも読めるものが多いのです.難しい本を読み始めて,途中で投げ出すよりも,一冊の本を完読して,体系的な知識として取り込んだ方が,よっぽどマシだと思います.そういう意味では,この本は原爆に関する入門書としては最適だと思います.
ある日,著者はアメリカのコロンビア大学で原爆の話をしました.公演の質問の中に,「核が戦争を抑止してきたのでは」というものがありました.著者は答えました.「戦後四三年間、世界のどこかで戦争が起きてきた。世界で戦争をしなかった国は、世界一六九か国のうち、日本をはじめほんのほんの七~八か国にすぎない。かつて、アメリカが核兵器を独占していれば世界は平和だとチャーチルはのべたが、その独占時代でも戦争は起きている。核をもったアメリカ自身、核のないベトナムをおさええなかったではないか。核の均衡が世界の核戦争を防いでいるというのなら、戦後史をふりかえってみればよい。朝鮮戦争、キューバ危機などで、核戦争に発展する危険性が生まれたとき、結局、民衆の世論の高まりが、指導者たちに核使用をあきらめさせたのである。それは、核戦争を拒否する民衆の力を指導者たちが無視できなかったからだ。日本はかつてすごい軍備を持っていた時代があった。その時代は、戦後の日本とくらべて国民の生命は安全だったといえるだろうか。残念ながら、その軍備のために、国民の生命も失われたし、よその国の人びとの生命も奪った。軍備だけが国民への安全を保障するというのは、虚妄ではないのか。」
虚妄ではないのか.「虚妄(きょもう)」 という言葉は,私の口癖なのですが,それはこの文章の影響なのです.第1刷発行から20年以上経った今でも,この本の内容が錆びませんが,逆に,20年前の核兵器の状態から,大きな変化は無いということなのかも知れません.
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