2011年11月2日水曜日

「(株)長津製作所」を見る

 今日の午後は,型技術協会の「第110回技術交流会」で神奈川県川崎市中原区にある長津製作所の本社工場を見学しました.長津製作所は,プラスチック・マグネシウム合金用精密金型の設計・製造およびプラスチック成形加工を手掛けている会社です.ここの会長であるMさんも型技術協会の理事をしておられ,理事会などで親しくさせていただいています.一度,会社を見学させていただきたいと思っていたところ,今回,技術交流会の会場として見学する機会を得ました.
 Mさんによる会社概要の説明の冒頭で,これまで圧倒的な金型輸入国だと思われていた中国が,2009年から世界最大の金型輸出国になっているという話をされました.日本への輸出は少ないだろうとのことですが,東南アジア諸国にはかなりの数が輸出されているようです.この会社は,カメラや携帯電話の部品の金型を得意としてきたのですが,これらの仕事も急減しているそうです.
 昔のフィルムカメラは,機構を収めるために複雑な形をした部品が多かったのですが,デジタルカメラは,レンズ周り以外は簡素な構造になりました.だから小型化できたわけですが,金型の製作は容易になりました.携帯電話も,スライド式や折りたたみ式のものがもてはやされる時代が続きましたが,最近流行りのスマートフォンの筐体は可動部分がほとんどなくなってしまい,金型としては簡単なもので済むようになりました.今をときめくiPhoneの筐体は金属の削り出しですから,金型は必要ありません.日本でしかできないという仕事そのものが,急減しているというわけです.
 このような中で,長津製作所はカメラの鏡筒の射出成形金型でアピールしています.鏡筒とは,レンズを取り付ける筒のことで,カメラのズーム機構を構成する重要部品です.筒の内側に,ヘリコイドやカムを設けるためのアンダーカットがあります.このアンダーカットを外すために,金型は内径多スライド構造となります.非常に複雑な構造となるだけでなく,光学部品を成形するため,高い精度が求められます.日本でしか製作できない,高付加価値金型の一つと言えるでしょう.最近は,より小さい「小径鏡筒」の成形にも挑戦しているとのことです.
 営業技術部の方による3D CAD/CAMと樹脂流動解析ソフトを活用した設計に関する講演も,興味深い内容でした.フロントローディングとは,業務の初期工程(フロント)に負荷をかけ(ローディング),作業を前倒しで進めることですが,この会社では初期設計の段階で徹底的に検討を重ね,金型の完成ではなく,量産の開始を早くすることを目指しています.どんなに早く安く金型を作っても,後で修正や調整などで時間と費用がかかるようでは本末転倒です.分かっているつもりでも,忘れてしまいがちですね.
 技術交流会の趣旨は工場見学なのですが,今回は話題提供の内容に注目してみました.

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