2011年2月6日日曜日

地場産業&中小企業による「隙間埋め製品」の開発

というテーマで,自分が考えているこれからの日本のものづくりについてまとめてみました.色々な委員会で提案しようとしている内容なので,ご意見いただけると幸いです.
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現状
 ボリュームゾーンへ対応するために,巨大消費地である中国や東南アジア諸国などへの生産拠点の移動が急速に進みつつある.円高によって,これまでのような輸出産業の維持が困難になる一方,より安価な労働力を獲得するために,大企業は海外への生産拠点の移転を急いでいる.同時に,大企業の仕事を請け負ってきた中小企業も,大企業に請われる形で海外に進出を始めている.

問題
 企業の海外移転によって,国内生産だけでなく,国内雇用も減少する傾向が顕著に見られる.最近話題となっている若者の就職難の問題も解決の糸口が見つからないなど,国内感情の閉塞感は高まる一方である.
 また,移転する企業とともに,これまで日本の製造業を支えてきた高いレベルにある生産技術が,新興国に流出することは避けられない.生産技術は,実践的な生産活動とともに発達するものである.実際にものをつくらないと,本当の生産技術は育たない.新興国の生産拠点において,現地の技術者が日本の技術者の下で経験を積み,独自の生産技術を追求するようになれば,いずれ日本の生産技術を追い越すものが出てくると予想される.そうなれば,これまで日本経済を支えてきた製造業による国際的な優位性が,完全に失われることになる.
 大量生産を前提としている大企業が海外に進出するのを抑えようという考えは,非現実的である.事業の維持・拡大を海外市場に求める余力のある大企業は,新興国に生産活動を展開しながら,日本人を中心に,大量の雇用を維持することが責任であると考える.しかし,これのままでは国内の生産拠点を維持することはできない.日本国内に「ものづくり」を残すためにも,大企業に依らない,新たな取り組みを確立することが必要である.

対応策
 国内生産の維持を大企業に期待できない以上,依るべきは中小企業や地場産業の活動である.中小企業(地場産業)と大企業では,ゴールが異なる.変種変量生産にも柔軟に対応できる中小企業の規模の利点を生かし,大企業が提供する大量生産品を補間するような付加価値の高い製品をタイムリーに提供する.小規模で高価な製品になるかも知れないが,よい物を作ることで,量産品の手の届かない隙間を埋め,製品の世界全体をより豊かする.結果として,多様化が進む消費者のニーズにも対応できる.
 また,地方の中小企業が自立することは,その地域の地場産業の活性化と自立にも繋がる.多くの中小企業が協力して地場産業を拡大することができれば,雇用も増加するなど,地域全体の発展にも大きく寄与する.
 これまで,大企業の仕事を請け負う形で活動してきた中小企業が,これから独自の製品を提供していくためには,まず,自ら製品を開発するという意識改革が必要である.また,そのような決断を後押しするような政策支援も不可欠である.
 技術的な課題としては,「企画力」と「設計力」の不足があげられる.構想段階から様々な試行錯誤ができるなど,アイデアを具現化しやすい設計支援システムの確立が望まれる.また,超精密加工や5軸制御加工などの高付加価値加工技術を日本独自のものにするために,先鋭化していく取り組みも必要である.

地場産業から発信された工業製品の具体例
○感性に訴え世界で認められた急須『繭(まゆ)』
 山形の「薄肉鋳造」の技術を生かした鋳物のポットを製品化したもの.欧米人が日本に対して感じている文化美意識を,現代人の生活に合うように意識して再創作した.企画段階から,海外への発信を意識している.砂型を作る技術が他にないため,製品を目の前にしてもコピーすることができないという点も,大きな強みである.
 地域の異業種の企業・職人と,地元出身の世界的なデザイナーが,地元に愛され,世界に通用する商品を地域一体となって開発していくこと目指した「山形カロッツェリア研究会」による取り組み.
○名匠の技と歴史がココロをつかむ『燕のビアマグカップ』
 新潟県燕市の磨き職人が,音や振動,においなどの五感と長年の勘を活かして磨き上げた1個14,000円のビアマグカップ.個性的なデザインと質感,最適な泡立ち,そして,何よりもこだわりのものづくりへ取り組む姿勢が消費者を捕え,全国から注文が殺到した.燕市の磨き職人の技能は,i-Podや半導体製造装置にも利用された高度なものである.
 購入後も,使用に伴う表面の擦り傷を,職人が再研磨してくれる.ユーザと職人の共創により,製品に対する愛着と共感が増していく.

1 件のコメント:

ucchan さんのコメント...

同感です。
enmonoが昨年試行錯誤してきた、マイクロモノづくり、賛同者も少しは増えてきたように感じられます。
企画+テクノロジー+マーケティング全てにおいて革新的にならなければならないと、ソニーの盛田さんも仰ってます。
中小企業も同様と思います。
一社では実現できないとしても、全体像をイメージできるようになる必要はあると思います。
その上で、協力者と提携していく、自立した緩やかな連携を組んでいく、そういった行動が重要です。
また一度、お会いして、ゆっくり議論させていただきたい話題です。